Artist's commentary
エリザベスを追え!
学園祭を間近にひかえた軽音楽部員の秋山さん。
ライブの練習のつかれのせいか、
電車の中でついウトウトといねむりをしてしまいました。
ふっと目がさめるとそこはもう降りる駅。
あわてて飛び降りた秋山さんは改札を出てすぐ、大変なことに気付きました。
「電車の中に、だいじな楽器をおき忘れてきちゃった!!」
さあたいへん、すっかりあわててしまった秋山さんの足はガクガク、
つかれのたまった頭はパニックをおこしてぐるぐるとカラ回りするばかりで、
もうどうしていいかわかりません。
冷や汗をながしてすわりこむ秋山さんの前に
とつぜん見たことのない女の子が現れ、
なにか困ったことがあるのねとその手をふれてきました。
ふしぎなことに女の子はそれだけで、
秋山さんが楽器をなくしてこまっていることを見抜いてしまいました。
女の子は言いました
「これからちょっと変わったことをするけど、
そのことをだれにも言わないって約束してくれます?」
よくわからないままにうなずく秋山さん。
すると女の子は、自分にしっかりつかまれと言います。
言われたとおりにすると、なんとふたりの体は、
見えない大きな手にもちあげられるようにフワリと宙に浮き、
目にもとまらぬ速さで(ほんとうに、
まばたきもしていないのに目の前の景色が、パッ、パッ、と飛び去るのです!)
すでに遠く走りさった電車を追いかけはじめました。
たちまちのうちに電車に追いつき
だいじな楽器をぶじに見つけた秋山さん。
「ああ、よかった!」
お礼を言おうとふりかえったその時には
女の子のすがたはもうどこにもありませんでした。
その日のできごとを秋山さんは
軽音楽部のだいじな仲間たちにも話しませんでした。
だれにも言わないと、あの女の子と約束したし、
なによりもあの日のできごとがほんとうにあったことなのか
それとも電車でいねむりをして見た夢なのか
自分にも、もうよくわからないのですから……。